奈波の読書記録

本の紹介と記録

「氷菓」の読書記録

 物語は平成12年の公立高校が舞台。限られた手がかりで、今の生徒には忘れられてしまった33年前の出来事の真相に迫るお話。

 同じ高校であっても時代により生徒たちの心持ちが全く違うのが印象的。かつて学生運動が盛んな時代があって、現代よりも自主的な意思表明が行われていたのだと改めて考えさせられる。平成、令和の学生たちは、強い自己主張をすることがあるだろうか。何かを変えてやるんだという熱い気持ちを持つだろうか。多様性が認められつつある社会で、エネルギーが集約されて大きな動きとなることはあるのだろうか。

 対して、現代に生きる主人公はとても積極的とは言えない青年だが、作中ではそのことを決して否定しない。彼らは誰も傷つけてはいないのだから。

「百年の孤独」の読書記録

 理解できない部分も多かったので、感覚になるがとりあえずまとめてみる。

 一族が滅びるまでの話。孫、曾孫…と血が繋がった者が登場する。家族であっても明らかな愛情を表現することのない一家だが、失ってから大事であったことに気づくような描写が随所に見られ、なんとも切ない気持ちになる。

 子孫が続いていくということは始まりの誰かがいるはずで、自分と兄弟にしか繋がっていないもの、少なくとも父母のものはそうだ、もあることに気がついた。深く考えなくてもいいのかもしれない、ただ繋ぐという形があってもいいのかもしれない。

 

「潮騒」の読書記録

 こんなに綺麗な小説があるのだろうかと思うくらいに、ひたすらにまっすぐで美しくて素朴な純愛小説。

 自然と人が寄り添った生活が残る、伊勢湾の小さな島が舞台。必然と海の描写も増える。朝の海、昼の海、夜の海。広くて大きな海が、単調だが力強い島民の生活を見守っている。

 純愛小説なんてと思わず、手に取ってもらいたい。自然で遊んだ遠い昔を懐かしむような気持ちになるし、そして生きるとはどういうことだったかをその流れで自然と思い出させられる。読後は穏やかでまっすぐな気持ちになる。

「金閣寺」の読書記録

 本作は三島由紀夫の代表作のひとつに挙げられることが多い。実際にあった金閣寺放火事件を題材に、主人公が放火に至るまでの心理を丹念に掘り下げて描写している。

 三島氏は政治的主張が強い人物というイメージがあったので、情景豊かで詩的な文を読んで驚いた。世界がいつも見ている景色よりも、とても美しく感じられた。

 自然や金閣の美しさと比較して、人間は美しくない。どんなに素晴らしいように見える人であっても、何かに執着したり、誤った道に進むこともある。生きていくには、美しいままではいられないものなのだろうか。

 

 

 

 

「ザリガニの鳴くところ」の読書記録

 タイトルにある「ザリガニの鳴くところ」は作中にもよく出てくる言葉だ。ザリガニの鳴き声と聞いても思い浮かばないし、もちろん鳴き声を聞いたこともない。

 意味は「生き物たちが自然のままの姿で生きている場所」。そう聞くと、人間のあずかり知らないところでは、ザリガニたちもひそひそと鳴いているのかもしれないという気がしてくる。小説の舞台は小さな町に隣接した広い湿地で、多くの生き物が自然のままの姿で生きている様子も描かれている。

 人物について触れよう。主人公のカイアは母に置いていかれ、自然を母として成長してきた。彼女が見せる行動は、人間社会に生きる者からすると奇妙に見えるが、それは自然の摂理に適ったものだ。そう考えると人間社会というのは、その他多くの種から見れば奇妙な世界なのかもしれない。

 著者ディーリア・オーエンズは動物行動学の博士号を取得した野生生物学者であり、長年の調査研究では多くの野生生物たちの営みを見守ってきた。彼女の書く文章は自然への敬愛に溢れている。

 本の分厚さや、翻訳本ということで顔を顰める人もいるかもしれない。しかし、文体も読みやすく、物語はミステリーの要素も含んで展開していくのでページは自然と進んでいく。本を開けば広大な自然が待っている。